位牌を扱う仕事は、もともと父の事業でした。2007年に一緒に台湾に訪れた際に、竹製の茶器を見た父が竹で作る位牌を企画し、3年ほどかけてようやく商品ができました。しかし、いざ売り込みにという時に病気で亡くなってしまいました。当時私は専業主婦で事業継承など考えていませんでした。
私は、妻として、母として、嫁として、なにより父の娘として、いつも自分の立場と選択に迷い、葛藤と闘っていました。病床の父が私に商品のことを事細かに伝えてから亡くなったので、そのやりとりや、生前、竹位牌の開発を目を輝かせて待ち望んでいた父や叔父たちの苦労を傍らで見ていたことなどもあり、その期待や苦労が実を結ぶためにも竹位牌を販売したいという思いが、私の中の葛藤よりも勝っていました。
また、雑貨店で働いていたこともあり、フェアトレードにも興味があったので、派遣で働いていた頃は貿易に関する事務職に就き、少しずつ貿易に関する知識を付けていました。竹位牌は台湾産の竹を使い、ベトナムで製造し日本に輸入しているので、昔学んだ知識も役立つと思いました。
竹位牌「紡(つむぐ)」と厨子の企画、それらの販売サイト「竹樹 BAMBOO TREE」の運営です。また、故人が生前に残した直筆のメッセージを遺品とともに残す「さいごの贈りもの」を、終活にも取り入れてもらえるような商品にしようとリブランディング中です。
竹位牌は遠州綿紬の風呂敷で包んで発送しているのですが、その風合いがとても好きで、遠州綿紬を使った小物を作りたいと思い、布小物の製造、販売をする「kocchi」ブランドも立ち上げました。今は遠州綿紬だけでなく、麻や帆布、コーデュロイなど、遠州織物全般を扱っています。
竹位牌「紡(つむぐ)」は葬儀屋さんや仏具店が中心です。県外では仏具問屋との取引もあります。厨子は主に個人の方からの注文です。今後は百貨店などにも売り込みをしていきたいと考えています。
「kocchi」の商品はネット販売の他、駿府楽市やNEXCO中日本のNDrive Shopで販売しています。
事業自体をやると決めても、事務所がありませんでした。セールスは主に飛び込み営業で、このままの状態で行っても信用されないのではと思い、きちんと事業の拠点をつくろうと考えました。インターネットで情報を集めプラザの存在を知りました。それまでは専業主婦でビジネスに関する知識が何も無いため、商工会の施設なら有益なアドバイスをもらえると思い、入居することに決めました。
創業間もない人たちが集まっているということで、仲間意識が生まれ心強かったです。また、入居者やその他の人達と異業種交流ができたことや、商工会のサポートやアドバイスは、その後の事業の広がりを生み出してくれました。この時に出会ったアドバイザーのおかげで「kocchi」を立ち上げることもできました。
もともと父が進めていた事業なので、私自身が創業したかというと少し違うのですが、もしかしたら、この竹位牌を私以外の誰かが販売していたら、もっと世の中に広まるじゃないかと、未だにそんな思いと葛藤しています。でもやめることはいつでもできる、続ける方が難しい。だからもう少しがんばろうと、常に考えています。
まだまだ自転車操業的なところもありますが、今後は終活産業ともコラボできればいいなと考えています。リブランディングした「さいごの贈りもの」を、来春のギフトショーで発表する予定です。
父が亡くなった後に父の文字を見て、文字はその人を表すんだと実感しました。故人からのサプライズとして家族へ直筆でメッセージを残す。それをカタチにするため、現在デザイナーとコラボして企画中です。
「この事業をやっていきたい」という意志を持つことが大事だと思います。私は、未だに自転車操業で迷いも多いですが、“この事業をやっていいよ”と何かに背中を押されている気がします。続けられるということは、そこには必ず何か意味があるはずです。そして、事業を通じて知りあう人たちとのご縁は本当に大切だと思います。
『ガジュマルの木のしたで 26人の子どもとミワ母さん』 ミワ母さんとは、タイでHIV感染孤児たちと一緒に暮らし、世話をしている女性です。20代で挫折を経験し、自暴自棄になっていた私を目覚めさせてくれたミワ母さんとのテレビ越しの出会いは、人生のターニングポイントだったような気がします。あの時、カチっと音をたてながら、私の中で気持ちが前向きに切り替わったことを、いまでも鮮明に覚えています。それから数年後に、本屋さんで偶然出会った大切な一冊です。