第160回「 産学官交流 」講演会(静岡県立大学)報告
静岡県立大学様にご協力いただき、第160回の講演会を開催しました。
今年度の5回目産学官交流講演会は静岡県立大学 食品栄養科学部 食品生命科学科 助教 寺田 祐子 氏による「オールシズオカで迫る! 海底熟成ワインの神秘」、同グローバル地域センター 特任教授・副学長 酒井 敏氏による「静岡の「のら変人」が見えますか?」の講演がありました。
静岡県立大学 食品栄養科学部 食品生命科学科 助教 寺田 祐子 氏
『 オールシズオカで迫る! 海底熟成ワインの神秘』
2010年にヨーロッパのバルト海で沈没船から引き揚げられたワインが高額で取引され話題となり、海底熟成ワインが世界的に広まった。海外ではイタリア、クロアチアで海底熟成ツーリズムが実施されダイビングや浜辺のレストランにて味わっている。日本国内でも製造され、静岡県では南伊豆町にて行われている。製造のメリットとしては販売価格が高くなる、マリンレジャーの閑散期に製造ができる、養殖(牡蠣、海苔)に使用しない海底を活用できる。ただ、フレーバー変化に関するエビデンスは無く、熟成メカニズムが不明、そのため、海底熟成によるワインのフレーバー変化を解析し、化学反応メカニズムを解明することを目的に研究した。南伊豆で実験し、香り成分を分析。地上保管と比較して海底熟成ではジエオキシエタンが生成された。又、ジエオキシエタンは地上保管と比較して5か月保存で70倍となった。ワイン中のエタノールが酸化することでアセトアルデヒドが生成、その後ジエオキシエタンができると推測。酸化は酸素と光が必要で海底熟成の光測定を実施、水深15mで460nmの青色可視光がピークの値となった。その後の実験では460nmのLEDライトで照射、海水温と同じ16度の冷蔵庫で保管した結果、海底熟成と同じジエトキシエタンの生成ができた。青色光照射による新たな熟成技術(従来法では生み出せなかった香りを付与)を事業化するために、今後パートナーとなってくれる企業を探す。
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静岡県立大学 グローバル地域センター 特任教授・副学長 酒井 敏 氏
『静岡の「のら変人」が見えますか?』
酒井副学長は旧清水市出身で京都大学にて理学博士を取得し、その後京都大学教養部助教授、同大学大学院人間環境学部研究科教授を経て、2023年より現職となっている。専門は地球流体力学で、大気や海上の力学的構造の研究のほか、トラクタル構造を応用した日除けを開発するなど、多様な研究を展開している。2017年、京都大学の未来に危機感を抱き、 「京都変人講座」を開講しており、今回はその変人をテーマとした講演となっている。物理学(地球流体力学)の視点から、「なぜ今、イノベーションのために『変人(へんじん)』や『遊び』が必要なのか」、そして「静岡という土地が持つ潜在的なクリエイティビティ」についての話。イノベーションの本質は「意味の書き換え」で、イノベーションは単なる技術革新ではなく、既存の価値観の外側にあるもの(一見無駄なものや「敗者」とされるもの)を取り込み、その「意味や価値観を書き換えること」から生まれる。例としてユニクロは「安くてダサい」と思われていたものを、デザインの一新によって「シンプルでかっこいい」という価値観へ変容させた。「エンジニアリング(設計)」は目標から逆算し、必要なものだけを揃えて効率的に実行する(西洋的・近代的)もの、「ブリコラージュ(寄せ集め細工)」は手元にあるものを組み合わせて、何ができるか探りながら進む(野生の思考)。 予測困難な現代のビジネス(エフェクチュエーション)においては、この「ブリコラージュ」的な発想が不可欠である。カオス理論が教える「予測の限界」は物理学における「カオス(バタフライ効果)」の観点から、将来を完璧に予測することは不可能であると指摘している。社会には「一見役に立たない無駄なもの(遊び)」が蓄積されている状態(臨界状態)こそが、突発的な変化やイノベーションを可能にする。静岡という土地の「ゆるさ」と「強み」が静岡にはこの「ブリコラージュ」的な文化が根付いていると分析、文化的な寛容さがあり、例えば、飲食店の不定休や一見不便な仕組みを「まあいいか」と受け入れるレジリエンス(しなやかさ)がある。又、崩れやすい地形や水害など、思い通りにならない自然と隣り合わせで暮らしてきた歴史が、予測不能な事態を楽しむ気質を育んだ。
結論として静岡には、既存の枠組みに縛られない「のら変人(独自の価値観で生きる人々)」が自然に生息していて、彼らが持つ「ゆとり」や「遊び」こそが、これからの予測困難な時代を生き抜く鍵となる。静岡の人々がこの豊かさを自覚し、自信を持つことで、新しい社会のモデルを提示できる可能性がある。
